SUIHEI BLOG

水平思考でモノ作りヤロー

水平思考でやるモノづくりプロジェクトをプライベートで緩く始めるという話。

数年前、ニコニコ動画である動画を見た。『朝まで!任天ちゃん』という動画だったと思う(多分今も残ってるはず)。

 

内容は、任天堂のモノづくりや他社との競争を、擬人化したキャラクターやイラストでコメディマンガ調に描いたファンメイク動画だ。

 

自分はこれが大好きで、未だ投稿されない続編(10話)を待ちわびているわけだけど、その動画の中で登場するあるキーワードがとてもよく頭に残っている。

 

それは、「枯れた技術の水平思考」という言葉。ゲーム&ウォッチゲームボーイなどを世に生み出し、花札の会社だった任天堂をゲームの会社に変えたアイデアマン・横井軍平の開発理念だ。

 

動画では、「枯れた技術(=十分に安くなった技術)を他の用途やアイデアに活用する」という概念及びモノづくり手法として登場する。

 

ゲーム&ウォッチの例で言えば、当時電卓戦争の余波で十分安くなっており供給過多になっていた早川電機(現シャープ)の液晶(それまでは高価だった)を、電卓ではなくゲーム機に利用した、というエピソードが枯れた技術の水平思考にあたる。

 

ちなみにゲーム&ウォッチのアイデアは、駅のホーム(新幹線の中だったかな)で電卓で遊ぶサラリーマンを見て思いついたらしい。

 

ホントかよって感じの面白い話。

だけど、今日はその話をメインでしたいわけじゃないので、ちょっと脇道に逸れよう。

 

今日の、というかこのブログ通しての本題は「枯れた技術の水平思考」の「水平思考」の部分だ。

 

横井のモノづくりでは、水平というのは使う用途を横にズラす、というイメージで語られるけど、実際はそこは表象でしかなく、肝じゃない。

 

何故なら、ズラす前の用途とズラした後の用途は、後から説明するのは簡単だけど、そのアイデアを思いつくまで用途のズラし方は現実として明示的なものではないから。

 

つまり、横井がゲーム&ウォッチを思いついたのには、蓋然性があった。偶然だけど偶然じゃなかった。それが本来の意味の水平思考の効能で、横井を生涯アイデアマンたらしめたものだと思う。

 

どういうことかというと、横井がゲーム&ウォッチを思いついたのは前述の通り電卓で遊ぶサラリーマンを見たからだけど、そのサラリーマンは駅のホームにいたわけで、横井だけがその人を見ていたわけじゃない。

だけど横井だけが液晶をゲーム(というかオモチャ)に使うことを思いついた。横井だけがコロンブスの卵を発見した。

 

これは、当時の横井にしか出来なかったことであり、しかし横井にしてみれば当然の帰結として出来たことだったと思う。

 

というのは、横井の置かれていた環境や性格による。

 

当時横井は、子どもの頃からのモノづくり趣味がきっかけで、ひょんなことから開発責任者(開発第一部 部長)を任されていた。

同部署では、次々に新しいおもちゃを開発していた(というかしなければいけなかった)。

そして任天堂は当時「光線銃SP」というおもちゃの開発を契機に早川電機と仲が良かった。横井ももちろんその内情をいくらか知っていた。

 

そして最後に、サラリーマンを目撃した。

 

つまり言いたいのは、横井が掴んだのは、一見偶然のように見える機会(チャンス)だったんじゃないかということ。

でもその機会は、彼以外には不可視のものでもあった。だから事情を知らない私たちからすると、偶然のようにしか見えない。またはとんでもないアイデアマンに映る。

 

これが水平思考の賜物だ。偶然(=不可視の機会)を可視のものにして掴めるようにする、それが「水平思考」の本質。

 

当ブログは、アイデアの源泉たるこの水平思考を使って何かモノづくりをしよう、というプライベートプロジェクトの、記録帳みたいなものだ。作った製品が当たったら会社にするかもしれないけど、まあそれまでの日記帳。

(名前も水平ブログにした。水平線モチーフのロゴはダジャレ。)

 

実際のところこのエントリーの本題はそれなんだけど、まあせっかく途中なので話を戻そう。

 

水平思考そのものは、横井軍平の提唱した概念じゃない。エドワード・デボノという、これまた凄まじいアイデアマンのイギリス人が作ったもの。著書もそのまま『水平思考の世界』というのがある。

同書の内容は次のエントリーあたりで書く。自分も水平思考の勉強中なので良い機会だ。

 

めちゃくちゃはしょって説明すると、訓練して人とは違う考え方(=ロジカルシンキングじゃない思考法)を身につけ、意識して色々なことをやったり時には放置したりして、アイデアの飛躍を待つというものだ。

 

率直に言って、○○思考とか名前がつくものの中でも、トップクラスに怪しく見えるものだと思う。(思考法なのに「偶然を待つ」とか平気で言っちゃってる。LSDの話も出てくるし、詐欺師の話も出てくる。)

でもデボノに言わせれば、その反応はロジカルシンキング(垂直思考)の限界の証でしかない(※デボノは垂直思考を否定しているわけではない)。

 

一つの物事に集中して分解してブレイクダウンしていくやり方とは全く違う思考法で、人間の思考回路の伝統的な作りにも反するので、訓練しなければ理解することが難しい。

つまり怪しい。あるいはすごいアイデアマンに見える。

 

説明になっているか分からないけれど、水平思考というのは、まあ大体そんなもの。偶然を機会にする、アイデアの源泉。

 

水平思考は別に新しい概念じゃないけど、今だからこそ見直す価値があるものだと思う。「今」というのはつまり、製品やサービスのコモディティ化が激しく、小型化やハイスペック化よりも独創的なものが生き残る時代のこと。

 

他人・他社と違う良いアイデアを生み出す思考法は、現代でこそもっと価値を発揮すると思う。個人としても、製品としても。

 

あと、自分の職業でよく使う思考法は顧客の課題を見つけるのは得意なんだけど、アイデアに飛躍させるところでいつも無力だったというのも、水平思考をちゃんとやろうかと思い至った理由の一つ。

 

横井やデボノになれるかどうかは分からないけど、良いアイデアを発見して実装・開発して世に送り出せるといいなと思う。

 

今はその端緒として、水平思考の学習・訓練をしつつ、水平のタネとなるのを機体して色々なことを勉強しながら、街中で毎日エスノグラフィをして課題発見を試みている感じ。

まだビビッと来たものは無いので、水平思考が足りてないんだろうな。頑張ります。

 

それでは、こんなエッセイめいたものを読んでくれてありがとう、そしてありがとう。

 

なお、このプロジェクトは完全に仕事とは関係無く匿名の形で、緩くやってくよ。たまに更新してるから、見つけたら生温く読んでってね。

 

それでは。